雑話17「和語と漢字」

 漢字は中国語を表記するための文字ですが、日本では古代から和語を表記するために利用してきました。多くは和語の内容にほぼ同じ内容を表す漢字をあてています。「あめ」には「雨」、「かぜ」には「風」のように。

 しかし中には別の内容を表す漢字をあてている場合もあります。魚介類が多いようです。例えば、

  和語       漢字
  あわび      鮑(しおうお)
  あゆ       鮎(なまず)
  かじか      鰍(どじょう)
  さけ       鮭(ふぐ)
  はも       鱧(やつめうなぎ)
  ふか       鱶(ひもの)
  ふぐ       鰒(あわび)

 また一語では同じ内容でも二文字(複数文字)になると順序が逆になるものもあります。発音のし易さからでしょうか。

  和語       漢語
  あとさき     先後  センゴ
  あめかぜ     風雨  フウウ
  うみやま     山海  サンカイ
  うらおもて    表裏  ヒョウリ
  きたみなみ    南北  ナンボク
  しりかしら    首尾  シュビ
  しろくろ     黒白  コクビャク
  たてよこ     経緯  ケイイ
  でこぼこ     凹凸  オウトツ
  なみかぜ     風波  フウハ
  にしひがし    東西  トウザイ
  のやま      山野  サンヤ
  まごこ      子孫  シソン
  みぎひだり    左右  サユウ
  めをと      夫婦  フウフ
  よるひる     昼夜  チュウヤ
  つきゆきはな   雪月花 セツゲッカ

 また和語を漢字表記したものを音読みした詞もあります。

  和語      漢字表記   音読
  あそびめ     遊女    ゆうじょ
  おこ       尾籠    びろう
  おほね      大根    だいこん
  かへりごと    返事    へんじ
  くれはとり    呉服    ごふく
  こころくばり   心配    しんぱい
  こころのほか   心外    しんがい
  でばる      出張    しゅっちょう
  ひのあて     日当    にっとう
  ものさわがし   物騒    ぶっそう
  やすね      安価    あんか
  やすね      安直    あんちょく

 和語に意味無関係の漢字をあてるものもあります。江戸時代以前のものに多いようです。

  家老      勘当      機嫌
  吟味      家来      沙汰
  承知      所帯      心中
  神妙      推参      世話
  粗末      存知      大切
  達者      逐電      馳走
  序(ついで)  当時      同心
  年寄      頓着      念頃
  扶持      不調法     触
  程       罷(まかる)  未練
  無下      無茶      迷惑
  面倒      勿体なし    野暮
  余儀なし    立腹      態(わざと)

 江戸時代の版本はふりがな付が普通ですが、和語等に面白い漢字をあてています。直前の家老・勘当などとは違い、漢字の意味を利用して使っています。少々例をあげます。

〇紙鳶堂風来山人『風流志道軒伝巻之一』
  うまれつき(生性) ひとゝなる(長) おどりこ(女妓)

〇為永春水『春告鳥』序
  よわたり(活業)  ふみや(書林)  ごけんぶつ(看官)
  かんかゆれど(翻案れど)

〇式亭三馬『浮世風呂』 浮世風呂大意
  なまゑひ(酔客)  しらふ(醒的)  ものゝふ(武士)
  ちうつぱら(侠客) しんだい(家私) ごしんぞさま(令室)



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